Moca Chainは、デジタル資格情報の発行・検証・再利用を支える、EVM互換のID特化型レイヤー1ブロックチェーンです。 2026年9月29日にメインネットが公開され、Moca Networkはゲーム実績、会員資格、本人確認結果などを、利用者の同意のもとでサービス間に持ち運べる基盤の提供を始めました。 ただし、AIエージェントによる自律的な取引は将来構想を含み、すべての機能や提携サービスが公開初日から利用可能になったわけではありません。
Moca Chainメインネットで何が始まったのか
Animoca BrandsのIDネットワーク部門であるMoca NetworkとMoca Foundationは、Moca Chainのメインネット稼働を発表しました。BlockchainGamerの報道によると、ネットワークはEVMに対応し、チェーンIDは2288です。Ethereum向けの開発ツールや既存のスマートコントラクト開発経験を生かしやすい設計で、MOCAトークンがネットワーク上の手数料やガバナンスに用いられます。
一般的なレイヤー1が送金やDeFiの流動性を中心に競うのに対し、Moca Chainは「誰が、どの資格や履歴を持つか」を証明するための基盤を前面に出しています。公式サイトでは、分散型データストレージ、Identity Oracle、zkTLS、オンチェーンのゼロ知識証明検証を主要要素として説明しています。
利用者に近い入口を担うのがAIR Kitです。企業やゲーム運営者はAIR Kitを通じて、アカウント作成、資格情報の発行、検証、ウォレットなどを自社サービスへ組み込めます。つまり、Moca Chainが共通基盤、AIRが企業向けの実装レイヤーという関係です。
パスポートを何度も提出しない資格確認の仕組み
Moca Chainが想定する基本フローでは、発行者、利用者、検証者という役割が登場します。例えば、ある事業者が利用者の年齢や本人確認の完了を確認し、その事実を資格情報として発行します。別の参加事業者は利用者の許可を受け、パスポート画像そのものを受け取らずに「必要な年齢条件を満たしている」「本人確認済みである」といった事実を検証できます。
発行者は資格情報を発行するだけでなく、状態の更新や失効も行えます。そのため、会員資格が終了した場合や確認内容が変更された場合に、古い証明が無期限に有効であり続けることを避けられます。ただし、実際の信頼性は、誰が資格情報を発行したか、検証側がその発行者を信頼するか、失効情報が適切に反映されるかに左右されます。
具体例として、Moca NetworkはトルコのチケットプラットフォームBiletinialとの提携を発表しています。計画されているのは、AIR Kitを利用した来場証明、会員向け特典、不正対策、二次流通などへの応用です。チケット所有やイベント参加履歴を再利用できれば、利用者はサービスごとに同じ情報を登録し直さず、主催者は確認済みのファンへ適切な特典を提供しやすくなります。
Web3ゲームで考えられる実用例
ゲーム分野では、ウォレット内のNFTだけでなく、プレイ実績や大会参加資格、ロイヤルティ状態を資格情報として扱える点が重要です。例えば、あるゲームで達成したランクやイベント参加履歴を、別のゲームやコミュニティが利用者の同意を得て確認し、限定クエストや先行参加枠を提供する、といった設計が考えられます。
Moca Chainの公式サイトには、Ubisoft、Open Campus、AnimeID、MocaverseなどがIDパートナーとして掲載されています。ただし、ロゴ掲載は、各プロジェクトの全機能がすでにメインネットへ移行したことや、ゲーム間で実績が自動共有されることを意味しません。どの資格情報を誰が発行し、どのサービスが検証を受け入れるかは、個別の統合内容を確認する必要があります。
Mocaverseでは、Moca IDやMocaProofを通じ、ウォレット保有状況、活動履歴、ロイヤルティなどを証明する取り組みが進められてきました。こうした仕組みがゲームへ広がれば、資産の保有だけでなく、プレイヤーとしての継続的な活動も評価材料になり得ます。
一方で、ゲーム実績の持ち運びは、アイテムが別ゲームでそのまま使えることとは異なります。資格情報は「実績を証明する」ためのものであり、ゲームバランスやアイテム仕様まで自動的に互換化するものではありません。
AIR Identity、Money、Loyaltyの事業モデル
Moca Networkが企業向けに展開するAIRは、Identity、Money、Loyaltyを組み合わせる構想です。AIR Identityでは、発行者が資格情報の検証条件や料金を設定し、別の事業者がその証明を利用する際に対価を受け取れるモデルが示されています。すでに実施した本人確認や会員確認を、利用者の同意を前提として他社でも活用し、発行者の新たな収益源にする考え方です。
ロイヤルティ分野の具体例がAIR Shopです。Moca Networkは、AIR Accountと検証可能な資格情報を会員ランクや特典へ結び付けるサービスとしてAIR Shopを展開してきました。また、韓国のSK Planet、サッカー情報サービスOneFootball、チケット事業者Biletinialなどとの取り組みは、ゲーム外で作られた顧客関係をWeb3の資格情報へ接続する事例として注目されます。
AIR Moneyは、決済、出金、カードなどの機能をアプリへ接続するための製品群として説明されています。チェックアウトでは法定通貨、ステーブルコイン、ロイヤルティポイントを扱う構想がありますが、実際に利用できる機能は、第三者プロバイダーとの統合状況や国・地域の規制によって異なります。日本で同じ機能が提供されるとは限らないため、対応地域や利用条件の公式発表が必要です。
AIエージェント向けIDはどこまで実現したのか
Moca Networkは、将来のデジタル経済ではAIエージェントが利用者に代わってサービスを探し、資格を提示し、支払いを実行する場面が増えると見ています。このとき必要になるのが、エージェント自身の識別だけでなく、「誰の代理なのか」「どこまで許可されているのか」「利用者が必要な資格を持つか」を確認する仕組みです。
例えば、利用者の旅行予約を代行するAIエージェントが、会員ランクの証明を提示し、利用可能な特典を確認して決済へ進む利用像が考えられます。ゲームでは、プレイヤーの代理エージェントが大会参加資格や保有権限を証明し、許可された範囲でアイテム管理や参加登録を行う可能性があります。
ただし、今回確定したのはMoca Chainメインネットと資格情報基盤の稼働です。AIエージェントがあらゆるサービスで自律的に契約・決済できる状態が完成したわけではありません。委任権限の失効、利用上限、不正操作時の責任、規制対応、エージェントによる誤取引の救済など、実運用には追加の設計が必要です。
公式サイトがMOCAの用途として人間とAIエージェント向けのデータ生成・保存・検証を挙げていることと、個別のAIサービスが商用利用可能であることは分けて理解すべきです。
ゲーム事業者が導入前に確認すべき点
ゲーム運営者がMoca ChainやAIR Kitを検討する場合、最初に決めるべきなのは「何を証明したいか」です。Mocaverseの活動履歴、Biletinialの来場証明、SK Planetの会員資格のように、再利用することで利用者の手間が減る情報を選ぶ必要があります。収集できるからという理由だけで、行動履歴を過剰に資格化するのは適切ではありません。
次に、発行者の信頼性と失効手続きを確認します。大会参加資格や年齢条件に使うなら、誤った発行、アカウント売買、資格の期限切れをどう扱うかが重要です。ゼロ知識証明は開示する情報を減らす技術ですが、元の確認が間違っていれば、その誤りまで自動的に修正するものではありません。
さらに、ガス代を誰が負担するか、ウォレットを意識させない操作をどこまで提供するか、既存アカウントとの統合方法、障害時の代替手段も検討対象です。EVM互換であることは開発上の利点ですが、それだけで安全性、法令適合性、利用者体験が保証されるわけではありません。
プレイヤー側は、資格情報の発行元、共有先、共有される項目、失効方法を確認すべきです。MOCAを利用する機能についても、ゲーム参加に必須なのか、事業者が手数料を負担するのかを公式案内で確かめることが重要です。
まとめ
Moca Chainのメインネット公開により、Animoca Brands傘下のMoca Networkは、検証可能なデジタル資格情報を発行・更新・失効・再利用するための本番基盤を稼働させました。EVM互換、MOCAによる手数料とガバナンス、ゼロ知識証明、AIR Kitを組み合わせ、ゲーム実績、会員資格、チケット、ロイヤルティなどをサービス間で確認できる仕組みを目指しています。
GameFiにとっての意義は、NFTを移動させるだけでなく、プレイヤーの実績や信頼を本人の同意に基づいて持ち運べる可能性が生まれることです。一方、各パートナーの統合範囲、AIR Moneyの地域別提供状況、AIエージェントによる自律取引の実装は個別に確認が必要です。
今後は、Moca Chainの技術資料に加え、Ubisoft、Open Campus、Mocaverse、Biletinialなど各事業者が発表する具体的な対応機能、資格情報の発行条件、利用者向けの失効・同意管理を確認することが、実用性を判断する鍵になります。

