フルオンチェーンゲーム「Pirate Nation」を開発した米Proof of Playが、2026年8月4日に事業停止を発表しました。同社は「ブロックチェーンゲームが新たな分散型インターネットを生み出す」という中心的な仮説を証明できる持続可能な事業を築けなかったと説明しています。a16zなど有力VCから多額の資金を集めた注目プロジェクトの終焉は、GameFi業界に重い問いを残しました。
Proof of Playとは何だったのか
Proof of Playは、米国を拠点とするブロックチェーンゲーム開発スタジオです。同社の最大の特徴は、CEOのAmitt Mahajan氏が、ソーシャルゲームの金字塔「FarmVille」の共同開発者だった点にあります。多くのブロックチェーンスタートアップがゲーム開発の実績を持たないなか、Proof of Playは大手ソーシャルゲームを手がけた経験という、業界では稀有な信頼性を備えてスタートを切りました。
同社が掲げたビジョンは単なる「稼げるゲーム」ではありませんでした。ブロックチェーンゲームを通じて、中央集権的な現在のインターネットに代わる新しい分散型インターネットを実現するという壮大な仮説を、実際のプロダクトで証明しようとしていたのです。この理念こそが、後に同社が「証明できなかった」と総括することになる中心テーマでした。
3300万ドル調達と豪華な出資陣
Proof of Playは2023年9月、3300万ドル(約数十億円規模)のシードラウンドを発表しました。このラウンドは著名VCのa16z(Andreessen Horowitz)とGreenoaksが共同でリードし、投資家にはNaval Ravikant氏やBalaji Srinivasan氏といったWeb3業界の著名人が名を連ねました。
シードラウンドとしては異例の規模であり、出資陣の顔ぶれからも、業界の期待の大きさがうかがえます。FarmVilleの共同開発者が率いるスタジオという実績と、分散型インターネットという野心的なビジョンが、この資金調達を後押ししました。潤沢な資金と信頼性を武器に、Proof of Playは他のブロックチェーンゲームとは一線を画す挑戦を始めたのです。
フルオンチェーンゲーム「Pirate Nation」の挑戦
同社の旗艦タイトル「Pirate Nation」は、当時もっともアクティブなフルオンチェーンゲームの一つとなりました。一般的なブロックチェーンゲームがNFTなどの「資産」だけをチェーン上に置くのに対し、Proof of Playはゲームのロジックやデータの多くを300以上のスマートコントラクトに実装しました。これは技術的に極めて野心的な設計です。
ピーク時には、Pirate Nationは1日あたり100万件を超えるトランザクションを生み出しました。この膨大な処理を支えるため、同社はApexとBossという2つの専用Ethereum L3チェーンを立ち上げます。しかしMahajan氏のコメントによれば、これらのチェーンの運用コストは1チェーンあたり月およそ6万ドルに達したとされています。技術的な先進性が、そのまま高い固定費として同社にのしかかる構図でした。
PIRATEトークンとインセンティブ設計
Proof of Playはトークンインセンティブにも積極的に取り組みました。2024年6月にはPIRATEトークンをローンチし、ステーキングによってProof of Play Pointsを獲得できる仕組みを導入します。Founder Pirate NFTの保有者には大きなステーキング倍率が与えられ、ステーキング済みのPIRATEはショップでのGemsなどの購入に10%割引で使えるという設計でした。
Gemsは譲渡不可(non-transferable)で、ゲーム内の進行に有利になる通貨として機能しました。これは、現在AppTokensなどが推進する「消費専用通貨」に近い設計思想で、投機の対象になりにくい形を志向していたと言えます。こうした複雑なインセンティブ設計は確かにゲーム内の活動を活発化させましたが、それが持続可能なビジネスに転換することはありませんでした。
なぜ持続可能なビジネスにならなかったのか
Pirate Nationには、熱心なファンだけでなく、経済的動機で参加するプレイヤー、ファーマー(報酬目的で作業を繰り返すユーザー)、そしてボットが集まりました。同社は毎週のアップデートでゲームを改善し続けましたが、メタゲーム(ゲームを取り巻く戦略構造)は、資産を稼ぎ、蓄積し、投機するという金銭的動機に大きく偏ったままでした。
この構造の脆さは、トークンへの期待が弱まったときに露呈します。トークン価格の上昇期待が薄れると、金銭以外の理由でゲームに留まり続ける十分な魅力を感じるプレイヤーが、あまりに少なかったのです。「活動量」は生まれても、それが「事業の持続性」に結びつかない——これはPlay-to-Earn型GameFi全体が抱える根本的な課題を象徴する結末でした。
2025年の縮小から2026年の閉鎖まで
2025年8月、Proof of PlayはPirate Nationを終了し、ApexとBossの2チェーンも停止しました。同社は、オーディエンス(プレイヤー層)がこれ以上の投資を正当化できなくなり、2つのチェーンを維持することに経済的合理性がなくなったと説明しています。前述の月6万ドル×2という運用コストが、縮小するユーザー基盤に見合わなくなったのです。
その後も同社は、Abstract上で稼働する「Proof of Play Arcade」を継続し、検証可能な乱数生成器(VRF)などのインフラを提供していました。実際、同社の技術はGigaverseに利用され、別のWeb2ゲーム「Shiba Story Go!」は最終的に第三者に買収されています。しかし2026年8月、Proof of Play自身がついに事業を停止するに至りました。
オープンソース化とコミュニティへの継承
閉鎖にあたり、Proof of Playは資産をコミュニティに開放する道を選びました。Pirate NationのUnityクライアント、スマートコントラクト、社内開発ツールはオープンソース化されています。さらに、Founder Pirateのアートワーク、ブランディング、その他の知的財産はCC0(パブリックドメイン相当)で公開され、誰でも制限なく再利用できるようになりました。
また、独立組織であるPirate Nation Foundationが、PIRATEトークンとエコシステムのサポートを継続すると表明しています。開発元が撤退した後も、オープンソース化された資産とコミュニティ主導の財団によってプロジェクトが存続する可能性を残した点は、Web3プロジェクトならではの幕引きと言えるでしょう。中央集権的なゲーム会社の閉鎖では、こうした形での「継承」は通常起こりません。
日本のGameFiプレイヤーが学ぶべき教訓
Proof of Playの事例は、日本のGameFiユーザーやプロジェクト関係者にいくつかの示唆を与えます。第一に、豊富な資金調達や有名投資家の存在は、事業の持続可能性を保証しないという点です。3300万ドルの調達と著名VCの後ろ盾があっても、収益モデルが成立しなければ撤退は避けられません。
第二に、金銭的インセンティブに過度に依存したゲーム設計の危うさです。トークン価格に依存したエンゲージメントは、市況が悪化すると一気に崩れます。プレイヤーが「稼げなくても遊びたい」と思える純粋なゲーム性こそが、長期的な生存の鍵になります。プロジェクトを評価する際は、トークノミクスだけでなく、ゲームそのものの面白さや、金銭以外の継続理由が用意されているかを見極めることが重要です。
まとめ
Pirate Nation開発元Proof of Playの閉鎖は、フルオンチェーンゲームという技術的に先進的な挑戦の一つの結末を示しました。300以上のスマートコントラクトによるオンチェーン実装、1日100万件超のトランザクション、専用L3チェーンの運用といった野心は、同時に高い固定費と、投機に偏ったプレイヤー構造という課題も抱えていました。
一方で、資産のオープンソース化とCC0公開、そしてPirate Nation Foundationによる継続支援は、Web3ならではのコミュニティ継承の可能性も示しています。GameFiに関わる際は、話題性や資金力だけでなく、事業としての持続可能性と、金銭を超えた面白さがあるかを冷静に評価する姿勢が求められます。本記事は投資助言ではなく、各プロジェクトへの参加は必ず公式情報をご確認のうえ、自己責任でご判断ください。

